木曽ペインティングスvol.03 02.大つたや

船井美佐」

下記、素材感想レポートです。

天竺綿布のロールキャンバスを提供していただいた。

シーツくらいの薄さの綿の表面に滲み止め処理がしてある。表面は滑らかで、まるで紙のようで素晴らしい。

私の作品は線描と色面を均一に塗る表現であるため、普通のキャンバスだと目が粗く出て適さず、板やキャンバスにジェッソを何層も塗って磨いて仕上げていた。和紙は理想的で雲肌麻紙や高知麻紙も使っていたが、先日20年くらい経った過去の作品を出してみると和紙は湿気を吸いやすくカビが発生したりしていて、デリケートで保存環境が難しいことを感じていた。同じ時期に描いたキャンバスとアクリルの作品は変化がなかった。

この天竺綿は、一般的なキャンバスよりもずっときめ細かく滑らかな画面で、和紙より強く、さらに和紙に比べると格段に安いというところが素晴らしい。

 

性質はキャンバスとも紙とも違うところがあるので少し注意が必要である。

貼るときは伸縮性がキャンバスほどはないので強く引っ張らなくて良いように思った。

一番の違いは、すごく薄いのであまり水を吸わず、紙とは違い水分の含有力が低い。低いというか無いと言ってもいいかもしれない。

まず表面処理だけがしてある生キャンで試し描きをしてみた。写真1、2、3、4

普通の粘度で描くには違和感を感じないが、アクリル絵具を水で溶いてたっぷりとためて塗ると表面ではじいて吸わずに表面張力で盛り上がる感じになる。にじみどめが効いている様子。表面処理がしていない裏面で試すと、逆に浸透しすぎでびしゃびしゃになる。濡れたハンカチのよう。乾いた後の収縮については、もちろん少しあるがあまり気にならないくらいだった。他の支持体と同じように、厚く塗り重ねた部分は縮みは増す。弾くくらいなので濡れて伸びる事の方はあまり感じられないが、少し裏移りした。

次に、すでに下地が塗ってある白キャンバスも購入して試してみた。

大変良い。白キャンバスの方は、表面が皮膜になっているので全く裏うつりはしなかった。しかしやはりそのままでは引っかかりが無く、吸い込みも無く、少し弾くので、水性の顔料を使う場合は一層薄く下地にジェッソを引いた方がいいと感じた。ぼかしなどの水を使う表現は、吸い込みのある紙と同じようにはできない。墨でぼかそうとすると表面に乗った粒子が動く感じがする。薄くジェッソを塗って使うと良いと思う。

はじめにさっと一層だけ薄くジェッソを塗って表面を見てみると、塗る前と色の違いやムラはなく、完全に絵肌が紙のように見える。美しい。そして紙のように見えるが紙より強い。

今まで他の支持体で、何層も塗り重ねてペーパーをかけていた下地作業は何だったのかと思える。

とてもよかったので、生のキャンバス、白下地済みのキャンバス、の他にマルオカ製の木枠に貼ったものと、マルオカ製のパネル張りのものと購入して試してみた。写真5、6

20号以上のサイズのものはキャンバスに貼るとたるむのでパネルのほうがいいとのことだった。小さなサイズではたるみは普通のキャンバスくらいしか感じず、適度に張りがあり描きやすかった。キャンバス張りの方は鋲がサイドに出ているタイプのみだったので、裏で止めてあるものがあればいいなと思った。

パネル張りの方は全面ボンド張りで裏まで回して処理してある。安定して描きやすかった。木工の村である木曽のマルオカ製のパネルの素晴らしさを感じた。軽く、精度が高く、裏側の枠は白いきれいな木でつくられていて、裏側も鑑賞に耐えるくらい美しい。コレクターに販売する作品などは長い強度が必要であるし、ここで購入したほうがいいと感じた。

マスキングをした。写真7、8、9、10

和紙にマスキングをする場合は下処理が必要であるが、そのままで問題なく付き、きれいに剥がれた。デザインナイフで表面を少々こすっても問題ない強さがある。

天竺綿には可能性を感じたのでこれから色々な制作に試してみたいと思う。

 

「藤原裕策

板に彩色と彫りを施した独自の技法